【背景・目的】薬剤性腎障害は,製薬企業の非臨床安全性試験でしばしば認められる毒性の一つである.腎障害を検出するバイオマーカー(BM)として,血中クレアチニン(CRE)および血中尿素窒素(BUN)があるが,これら従来のBMは腎機能が7割以上低下した際にのみ反応し,検出感度が悪いことが知られる.これに対し,近位尿細管障害の早期検出にKIM-1等複数の尿中BMが有用であることが報告されているが,糸球体機能を反映するBMに関しては報告が少ない.Symmetric dimethylarginine (SDMA)は,糸球体濾過量と相関し,慢性腎臓病の際にCREよりも早期に血中濃度が上昇することから,糸球体機能を反映するBMとして期待される.犬猫においては,既にSDMAの有用性が確立されており,腎臓ステージングガイドラインに掲載されている.しかしながら,げっ歯類における有用性については報告が少ない.そこで我々は,ラット腎前性腎障害モデルを作製し,ラットにおけるSDMAの有用性を評価した.
【方法】6週齢のSD雄ラットに媒体(Corn oil)もしくは50 mg/kg/dayの用量でシクロスポリンAを単回もしくは3および7日間反復経口投与し,最終投与翌日に剖検し,血液生化学検査,腎臓の病理組織学的検査および血清中SDMA濃度測定を実施した.
【結果】シクロスポリンA投与群では,単回および3日間投与後の,血液生化学検査および病理組織学的検査に異常は認められず,7日間投与後にBUNの高値,尿細管上皮の空胞化および再生像が認められた.血清中SDMAは,単回および3日間投与後に対照群と比較して高値の個体が散見され,7日間投与後には全例で高値であった.これらの結果からSDMAは,ラット腎前性腎障害モデルにおいて,CREおよびBUNよりも早期に変動するBMである可能性が示唆された.