【目的】我々は,尿中L-FABPが,げっ歯類及び非げっ歯類の急性腎障害モデルにおいて,初期の腎組織障害の検出に有用なバイオマーカー(BM)であることを報告してきた.今回,ラットのアデニン誘発慢性腎障害モデルを用いて,慢性腎障害における尿中L-FABP及び新規腎障害BMの変化を経時的に比較検討したので報告する.
【方法】6週齢の雄性SDラットにアデニン(25,100,250 mg/kg)を4週間反復経口投与して腎障害を誘発させた.アデニン投与開始後は週1回採尿し,尿中BMをELISA法(L-FABP)及びマルチプレックス法(Calbindin,Clusterin,KIM-1,Osteopontin,B2M,Cystatin C及びNGAL)で測定した.また,血中腎障害BM(尿素窒素「BUN」及びクレアチニン「sCRE」)を尿中BMと同時期に測定し,投与2及び4週に腎臓の病理組織学的検査を行った.
【結果】100及び250 mg/kg群では,尿中BMは投与1週からCalbindin,Clusterin,KIM-1,Osteopontin及びNGALが高値を示し,投与2週からL-FABP及びCystatin Cが高値を示した.血中BMは投与1週から高値を示し,腎臓の組織学的検査では投与2週から皮質及び髄質にアデニンの沈着及び組織障害がみられた.25 mg/kg群では,尿中BMは投与3週にL-FABP,Calbindin,Clusterin,KIM-1及びOsteopontinが高値傾向を示した.血中BMは投与3週に高値傾向を示し,腎臓の組織学的検査では投与2週に皮質及び髄質に変化は無く,投与4週に軽微なアデニン沈着及び組織障害がみられた.以上の結果から,尿中L-FABP及び新規腎障害BMは,アデニン誘発慢性腎障害モデルにおいても腎障害の検出に有用なBMであると示唆された.