【目的】マウス肝臓がヒトの肝細胞に置換されたヒト肝細胞キメラマウスは、薬物性肝障害のヒト予測モデルとしても期待されている。その中で発症頻度が高い胆汁うっ滞型薬物性肝障害に着目し、ヒト肝細胞キメラマウスを用いてその評価を行った。
【方法】ヒト肝細胞キメラマウス(PXBマウス®, 株式会社フェニックスバイオ)に、検証化合物としてケトコナゾール、リファンピシンをそれぞれ単回経口投与(200mg/kg)し、投与6時間後における血漿、肝臓中の胆汁酸濃度について質量分析装置LC/MS-MSを用いて測定した。また、ヒト肝細胞移植によるキメラマウスの胆汁酸プロファイルに与える影響を調べる目的で、低置換、中置換および高置換ヒト肝細胞キメラマウスにおける胆汁酸濃度を測定した。
【結果・考察】ケトコナゾール、リファンピシンを投与後、ALPの増加は観察されなかったものの、血漿、肝臓中ともに総胆汁酸濃度は増加した。その中でもタウリン抱合型胆汁酸の増加が有意であった。これは、胆汁排泄トランスポータの阻害を介した初期応答であると考えられた。一方、ヒト肝細胞の置換率が上昇するにつれてその胆汁酸組成は、グリシン抱合体の割合が高くなり、ヒトの胆汁酸組成の特徴に近づいた。しかし、置換率が高くなると胆汁酸濃度は増加する傾向がみられ、この濃度はヒトで報告される濃度よりも高値となった。その原因として、ヒト肝細胞キメラマウスでは胆汁酸生合成の律速酵素CYP7A1の活性が促進されていることが考えられる。ヒト肝細胞キメラマウスを用いた胆汁うっ滞型薬物性肝障害の評価にあたり、このような胆汁酸プロファイルも考慮に入れる必要がある。