【背景・目的】近年、医薬品規制調和国際会議(ICH)の生殖・発生毒性試験ガイドライン(S5)の改訂により、種々の適格性基準を満たした評価系が、胚・胎児の発生に及ぼす影響を評価する試験(EFD試験)の代替法として利用可能となることから、代替法の開発が活発化している。その中で、ゼブラフィッシュ(ZF)胚を用いる試験系は欧州で非動物試験と定義され、動物愛護の点で有利であることに加え、生体内の薬物動態が考慮可能であるという利点から特に注目されている。我々はこれまで、独自のZF胚中濃度測定手法を活用し、ZF胚の吸収及び排泄の解析、ZF胚の薬物代謝におけるヒトとの類似性の検証といった薬物動態学的知見を報告してきた。しかし、ICH S5対照物質を用いたZF胚試験の検証は未実施であり、こうした検証の報告はこれまで殆ど無い。そこで本研究では、ICH S5規定の対照物質を用いたZF胚発生毒性試験を実施し、EFD試験代替法としての有用性を確認することを目的とした。【実験方法】ICH S5の対照物質群から選定した医薬品の水溶液をそれぞれ調製し、ZF(NIES-R系統)の受精卵を28±1℃の環境下で受精後5時間(5 hpf)~5日までばく露した後、Yamashitaら(2014)1)を参考にして毒性評価及び発生毒性陽性/陰性の判定を行った。【結果・考察】ICH対照物質20種を用いて検証した結果、陽性対照物質の正答率は80%(8/10)、陰性対照物質の正答率は90%(9/10)、全体の正答率は85%(17/20)であった。また、偽陽性及び偽陰性と判定された計3物質については既報の判定結果と一致しており、ヒト-ZF間の種間差が原因であると考えられた。さらに、既報の試験条件を一部変更することで一部の物質で判定結果の改善が認められた。以上より、本研究におけるNIES-R系統のZF胚を用いた発生毒性試験はEFD試験代替法として有用であることが示唆された。本発表では、ICH対照物質群から追加で選定した医薬品について検証した結果も併せて報告する。1) Yamashita et al., J. Toxicol. Sci., 39, 453-464, 2014