【背景・目的】
食品の加熱等の加工過程により、多種多様な化合物が生成することが知られている。近年、脂質の加熱や酸化により、不飽和結合がエポキシ化された、エポキシ脂肪酸が油性食品中に含まれると報告されている。一般に、エポキシ構造を有する化合物はDNAやタンパク質などの生体分子との反応性が高く、遺伝毒性や細胞傷害などの影響が懸念されるが、エポキシ脂肪酸類の毒性試験については、ほとんど報告されていない。そこで本研究では、エポキシ脂肪酸類のin vitro遺伝毒性試験および細胞毒性試験を行い、健康影響評価の一助とすることとした。
【方法】
オレイン酸(C18:1)およびリノール酸(C18:2)のエポキシドである9,10-エポキシステアリン酸(ESA)および9,10:12,13-ジエポキシステアリン酸(DESA)を試験に用いた。In vitro遺伝毒性試験として、細菌を用いる復帰突然変異試験(Ames試験)、in vitroほ乳類細胞小核試験およびヒトリンパ芽球細胞TK6を用いたp53R2の発現に基づく遺伝毒性試験(NESMAGET®試験)を実施した。細胞毒性試験はヒト肝臓がん由来細胞株HepG2を用い、被験物質24時間曝露後、WST-8法およびLDH活性を指標に評価した。
【結果・考察】
ESAおよびDESAのin vitro遺伝毒性試験(Ames試験、in vitroほ乳類細胞小核試験およびNESMAGET®試験)はいずれも代謝活性化の有無に関わらず陰性であった。細胞毒性試験では、高濃度で細胞生存率の軽度な低下がみられたが、エポキシ化されていない脂肪酸と比較して明確な差は認められなかった。類似化合物であるエポキシ化大豆油(用途:可塑剤・安定剤)では発がん性の懸念は低いとされていることから、エポキシ脂肪酸類による健康影響の懸念は低いと考えられた。