【目的】Diazepamは、妊婦が妊娠高血圧症候群の重篤な症状の一つである急激な血圧の上昇に伴うけいれん発作(子癇)を起こした際に限定的に使用されることがある。妊婦に対してdiazepamを投与しても胎児への移行性が低いことから、胎児に対する毒性が低い薬物であると考えられている。しかしながら、diazepamは肝臓で代謝を受けても完全には不活性化されず、活性代謝物(nordazepam及びoxazepam)に変換されることが報告されており、これらの代謝物の胎児に対する安全性は、十分に担保されていないのが現状である。そこで本研究では、diazepam及びその代謝物の胎児への移行性と蓄積性を評価することで胎児に対する影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】妊娠14.5日のマウスに、diazepamを尾静脈内に投与した。Diazepam投与後、経時的に、母体の血液、胎児を採取し、LC-MSでdiazepam及びその代謝物を定量分析した。
【結果・考察】母体の血漿において、diazepamは投与2時間後、nordazepamは6時間後にほぼ完全に消失した。一方、oxazepamは投与24時間後においても検出され、そのAUCはdiazepamの約37倍も高くなっていた。また、胎児においても同様に解析した結果、diazepamは投与2時間後、nordazepamは6時間後にほぼ完全に消失した。一方、oxazepamは投与24時間後においても検出され、そのAUCはdiazepamの約22倍も高くなっていた。
以上の結果より、母体に投与したdiazepamは、母体の肝臓でoxazepamに代謝され、胎児へと大量に移行することが明らかとなった。また、胎児に移行したoxazepamは、胎児中に蓄積することから胎児の発生に何らかの影響を及ぼすことが危惧される。