【目的】免疫細胞や皮膚には、シトクロムP450(CYP)などの異物代謝酵素が発現している。これらは解毒分解などの重要な役割を担っている一方、ある種の化学物質を活性化することで、皮膚感作性発現に関与している可能性がある。皮膚感作性を持つ化学物質の多くは親電子物質であることから、モデル細胞でのNF-E2-related factor 2(Nrf2)の活性化を指標とした試験系を確立し、細胞内異物代謝酵素の阻害の影響を評価した。
【方法】ヒト表皮角化細胞株HaCaT細胞にNrf2活性化検出用レポータープラスミド(pGL4.37)をトランスフェクションし、Nrf2の活性化を検出可能なHaCaT-Nrf2-Luc細胞を樹立した。これを用いて、種々の接触性皮膚炎惹起物質を添加し、6及び24時間後におけるNrf2活性化をルシフェラーゼアッセイにより評価した。
さらにP450酵素の非特異的阻害剤であるSKF525Aを前処理した場合の影響についても評価した。また、ヒト皮膚組織をHAB研究機構から入手し、主なCYP mRNAの発現をHaCaT細胞と比較した。
【結果】陽性物質として知られるジニトロクロロベンゼン(DNCB)は6時間処理でNrf2を活性化し、この活性化はSKF525Aで阻害されなかった。一方、オイゲノール、イソオイゲノール、シナミルアルコールなどの化合物では、6時間処理に比べ24時間処理でより強いNrf2 が確認され、また、これらによるNrf2活性化はSKF525Aの前処理により有意に低下した。そこでCYP mRNAの発現量を検討したところ、HaCaT細胞では皮膚組織に比べてCYP1A1やCYP2E1の発現が相対的に多いことが確認された。
【考察】これらの結果から、ある種の皮膚感作性物質はHaCaT細胞内に発現しているP450酵素(CYP1A1やCYP2E1など)により活性化され、その皮膚感作性が増強する事が示唆された。現在、それぞれの酵素の特異的阻害剤などを用いて、皮膚感作性発現における細胞内異物代謝酵素の役割を検討している。