【目的】これまでに各種金属を基材とした金属複合水酸化物の創製に成功し,その物理化学的特性および水環境中に存在する毒性化合物との相互作用に関する知見を得ることに成功している。しかしながら,実用化を指向した検討は十分ではなく,さらなる検討が必要不可欠である。本研究では,ニッケルおよびコバルトを基材とした金属複合水酸化物に着目し,リン酸イオンとの相互作用に関する基礎的検討を実施した。一方,環境水へ適用した際の健康障害を予測しておくことは重要であるが,金属複合水酸化物が生体へ与える影響については評価系が十分に確立されていない。そこで,金属毒性に高感度な細胞を用いて,基礎的な細胞毒性を評価した。
【方法】水質浄化剤にはニッケルおよびコバルトを基材とした金属複合水酸化物(NC91, ニッケルおよびコバルトの含有モル比が9:1)を,吸着質にはリン酸二水素ナトリウムを使用した。また,NC91は280℃で熱処理を行った(NC91-280)。リン酸イオンとの相互作用は,吸着等温線などにより評価した。また,NC91およびNC91-280の細胞毒性は,ウシ大動脈血管内皮細胞(BAOEC)を用いて評価した。
【結果・考察】NC91およびNC91-280は,リン酸イオンを選択的に吸着できることが明らかとなり,その吸着量はNC91<NC91-280となった。また,リン酸イオンの吸着量は温度依存的であることがわかった。また,NC91およびNC91-280は0.1mg/mL未満の濃度領域で,BAOECに対して細胞傷害性を示さないことが分かった。以上のことより,本研究ではNC91およびNC91-280とリン酸イオンとの相互作用を明らかとした。また,他の細胞を用いた評価が必要であるが,血管内皮細胞への毒性は示さなかった。以上の結果から,金属複合水酸化物は実用化可能な水処理剤となりうることが示唆された。