【目的】3価クロム(Cr)は脂肪細胞においてペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)を増加させることでインスリン抵抗性を改善することが報告されており、2型糖尿病に効果があると期待されている。しかし、2型糖尿病の発症に重要な肝臓に対するCrの作用の解明は進んでいない。PPARγはhypoxia-inducible factor(HIF)-1と相互作用することも報告されている。HIF-1には様々な作用があるが、肝細胞ではエリスロポエチン(EPO)産生の調節因子であり、EPOは細胞保護に関わっている。肝臓において、CrがPPARγやHIF-1にどのように作用し、さらにEPO産生に及ぼす影響については明らかではない。そこで本研究では、EPO産生能を持つヒト肝がん由来細胞HepG2細胞におけるCrのEPO産生への影響およびその作用メカニズムの解明を目的とした。
【方法】培養HepG2細胞をCrを添加し、24時間後の細胞生存率をMTT assayで、mRNA発現量をリアルタイムPCR法で、タンパク発現量をウエスタン・ブロッティング法で測定した。
【結果・考察】HepG2細胞にCr (100μM)を添加すると、細胞生存率に影響なく、EPO mRNA発現量が増加した。さらにCrの添加によって、HIF-1量を調節しているHIF-1αとPPARγのmRNA量およびタンパク発現量も増加した。PPARγ阻害剤であるSR202をCrと同時に処置すると、HIF-1αタンパク発現量およびEPO mRNA発現量の増加が消失した。これらの結果から、CrによるPPARγの発現量の増加により、HIF-1αタンパク発現量を増加させ、EPO産生を増加させたことが示唆された。肝臓においてCrはEPO産生を介した細胞保護作用が増強すると考えられ、さらにPPARγを介したインスリン抵抗性の改善が期待できる。