我々は、網羅的な遺伝子発現ネットワーク解析に基づいて化学物質の毒性を予測および評価するために、細胞1個当たりの mRNA コピー数を測定するPercellomeプロジェクトを推進している。これまでのPercellomeプロジェクトの結果より、化学物質の反復ばく露を行うことで遺伝子発現の定常状態(基線反応*)が変化する遺伝子群が存在することを我々の先行研究で明らかにした。反復ばく露影響の分子機序の解明のためには、その制御メカニズム解明が必須である(*:ばく露の都度の変化を「過渡反応」、反復曝露による定常状態の変化を「基線反応」と定義した)。
化学物質の単回ばく露、反復ばく露に関わらず、ばく露されたマウスのゲノム情報は、基本的には受精卵から老齢に至るまで変化は無いことから、「反復ばく露による遺伝子発現の定常状態の変化」は、エピジェネティクス制御の変化によると考えられる。そこで、四塩化炭素(5mg/kg)を 14 日間連続で投与した肝臓サンプルにおいて網羅的ヒストン修飾解析(ChIP-seq)をH3K4me3 (活性化)、H3K27Ac (活性化)、H3K27me3 (抑制)、H3K9me3 (抑制)について行った 。
「反復ばく露により遺伝子発現の定常状態(基線反応)が増加した」遺伝子は20あり、うち13でヒストン制御の関与が示唆された。その中でSerpina7 は、H3K27Ac(活性化)との強い相関があり、その上流制御因子としては、Hnf1-a が知られ、ヒストンのアセチル化に寄与することが報告されている。この例から、我々は化学物質の反復ばく露により、「反復ばく露による遺伝子発現の定常状態の変化」の一部はヒストン修飾を介したエピジェネティックな変化によるものであると結論した。ここでは、その詳細を報告する。