日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S14-2
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シンポジウム 14
インフラマソーム機構を中心とした妊娠機構における免疫毒性研究
*白砂 孔明尾関 綾衣高橋 宏典大口 昭英
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抄録

 次世代を残すためのイベントは厳密に制御され、多くの妊娠機構に対して免疫機構が関与する。一方、免疫機構の破綻によって着床障害や妊娠高血圧症候群等が起きる。多くの異常妊娠では病原体などの感染が関与しない『無菌性炎症』と認識され、この経路の1つであるインフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体が注目されている。NLRP3インフラマソームは体内の様々なDAMPに反応してインターロイキン(IL)1βを分泌させ、過剰な活性化は痛風、動脈硬化、アルツハイマー病など様々な病態を誘導する。

 ナノマテリアルは次世代を担う新規素材であるが、ナノ粒子(NS)はNLRP3インフラマソームを活性化し炎症性疾患にも関与する。NSを妊娠マウスに曝露させると母体体重が低下し、胎盤機能不全、胎児発育不全や胚吸収(流産)が起きた。このとき胎盤内では好中球等がNSを貪食し、NLRP3インフラマソームの活性化が起きた。NLRP3欠損の妊娠マウスでは胎盤内への白血球浸潤が抑制され、NSで誘導した胎盤機能不全、胎仔発育不全や胚吸収が改善した。

 妊娠高血圧腎症(PE)患者の胎盤や末梢血白血球では、NLRP3インフラマソームが健常妊娠よりも活性化されている。Angiotensin IIを妊娠マウスに持続的に投与することでPEモデルを作製すると、胎盤内に多くの好中球が集積し、腎機能異常と低体重胎仔が誘導された。NLRP3欠損妊娠マウスでは、Angiotensin II誘導性の高血圧が抑制されるが、腎機能異常と低体重胎仔には関与しなかった。

 PE患者ではNLRP3インフラマソーム活性化因子である尿酸結晶や遊離脂肪酸(FFA)を含む危険信号の発現が高い。このFFAをヒト胎盤細胞に処置すると、NLRP3インフラマソーム依存的にIL-1β産生が引き起こされた。FFAを妊娠マウスに曝露させると胎盤内でNLRP3インフラマソーム活性化と好中球の動員が誘導され、胚吸収が起きた。

 本発表では、自然炎症を制御するNLRP3インフラマソームが暴走することで様々な異常妊娠が誘導される事象について紹介したい。

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