東アジアに代表される諸地域で井戸水を介した慢性ヒ素中毒が発生しており、多臓器における発癌、糖尿病や循環器疾患など広範囲な疾病を発症している。 一方で、バングラデシュとスウェーデンのグループの調査により妊娠中の長期ヒ素曝露によって幼児の下気道感染症のリスクが高くなることが報告された。 現在までに慢性ヒ素中毒によるこれらの疾患の発症機序についての報告はなされているが、生体の防御機能の中枢を担う免疫機能がヒ素化合物により障害を受けているかについての詳細な報告は少ない。 当研究室では、「生体の免疫機能がヒ素化合物によって障害を受け、それがヒ素による健康障害の増悪因子になったのではないか」と仮説を立て、ヒ素化合物の免疫機能を担当する細胞の機能に対する影響について検討を進めている。ナチュラルキラー(NK)細胞は、T細胞から放出されたIL-2を受容することで、IFN-γ等の様々なサイトカインを放出する。 また、サイトカインを受容したNK細胞は、がん細胞を特異的に認識する受容体やがん細胞を攻撃する因子の発現を上昇させることで、癌細胞への攻撃能を活性化する。 本発表では、慢性ヒ素中毒による発癌におけるNK細胞への影響について紹介する。