珪肺症は典型的な塵肺症の一つであり、珪酸(シリカ、SiO2)の慢性曝露により肺の線維化を引き起こす疾病である。珪肺症例では、呼吸器病変とともに関節リウマチとの合併であるCaplan症候群、強皮症、全身性エリテマトーデス、ANCA関連血管炎といった自己免疫疾患を高頻度で合併することが報告されている。珪肺症例で自己免疫疾患の合併が生じることについて、従来、珪酸粒子のアジュバント効果によるものと捉えられてきた。この効果に加え我々は、肺内やリンパ節などに繋留した珪酸粒子は循環免疫担当細胞と慢性かつ反復性の邂逅を繰り返すことによる直接的な作用があると考えている。
これまでに我々は、珪肺症例末梢血中の反応性T細胞、制御性T細胞はともに慢性的に活性化していることを明らかにした。珪肺症例の反応性T細胞では膜型Fas/CD95分子の発現が顕著に低下しているのに対し、制御性T細胞では膜型Fas/CD95分子は過剰に発現していることを見いだした。これは、珪肺症例の反応性T細胞はFas/CD95媒介のアポトーシスから逃れ長期生存するのに対し、制御性T細胞では早期に細胞死が引き起こされることを示唆している。さらに、この反応性T細胞は、Fasリガンドの機能を阻害する可溶性FasやDcR3を高発現しており、珪肺症例では反応性T細胞の活性化がより増長される条件が揃っていることが明らかとなった。珪肺症例における血漿中自己抗体を測定したところ、抗CENP-B、抗C-ANCA、抗-CCP、抗-dsDNA、抗SS-A抗体が健常人より顕著に亢進しており、珪肺症例では自己免疫疾患が未発症にも関わらず、すでに自己抗体が出現していることが確認された。これらのことから、珪肺症例では、反応性および制御性T細胞両群のアンバランスにより自己寛容の破綻が起きていることが考えられ、自己免疫疾患発症へと傾向していることが示された。