CD44は細胞外マトリックスと結合する接着分子として多くの正常細胞の細胞膜に局在し、主なリガンドはヒアルロン酸である。CD44は細胞外マトリックスとの相互作用、細胞運動や細胞増殖、シグナル伝達など様々な細胞の機能に関与している多機能分子でもある。また、CD44は選択的スプライシングにより多くのvariant isoformが存在する。CD44のvariant isoform は多くのヒトがん細胞で発現しており、がん幹細胞の特性である治療抵抗性の獲得や浸潤・転移など腫瘍細胞の悪性度との関連性が報告されている。特に、ヒト肺癌においてはvariant exon 6を含むCD44(CD44v6)は予後不良因子であるとの報告がある。そこで我々は、CD44v6が前がん病変を含めて肺発がんにどのように関与しているのかを明らかにするため、マウス肺発がんモデルを用いて肺発がん過程の早期から進展期に認められた各病変におけるCD44v6の発現を免疫組織学的に検討してきた。その結果、正常Ⅱ型肺胞上皮細胞にはほとんどCD44v6の発現が認められなかったが、肺胞上皮過形成でCD44v6陽性細胞が出現し、腺腫、腺癌と悪性度が高くなるにつれCD44v6陽性細胞率は有意に上昇した。また、進展期では、腫瘍結節辺縁部においてCD44v6強発現を伴う乳頭状増殖優勢の腺癌では、結節周囲の肺胞内へCD44v6陽性腺癌細胞が島状、乳頭状に進展する像を認めた。これらの結果より、CD44v6は、肺発がん過程において、Ⅱ型肺胞上皮の増殖という早期の段階から腫瘍形成、進展期にわたり関与し、CD44v6の発現が肺がんの発育、進展に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。病理組織学的所見に加えCD44v6は、肺の増殖性病変や孤立した腫瘍細胞の検出および腫瘍細胞の悪性度の予測に有用な指標となりうるのではないかと考える。