行動異常を伴う中枢神経系の発達障害の一因として、胎児期あるいは小児期における化学物質のばく露が疑われている。しかしながら、それを未然に発見する為の神経毒性試験において、従来の試験法では、行動異常の検出について心理学的記載に留まるものが多く、客観性および定量性に欠けるものである点、及び、化学物質のばく露対象を主に成熟動物としている点、が指摘される。
そこで我々はこれまでに、マウスを用いて、①オープンフィールド試験、明暗往来試験、高架式十字迷路試験、条件付け学習記憶試験、プレパルス驚愕反応抑制試験の5つの行動解析試験を組み合わせたバッテリー式の行動解析によって従来の神経毒性試験法では同定困難であった情動認知行動異常についての客観的かつ定量的な検出系を構築し、②実際に周産期、あるいは幼若期マウスに対して神経作動性化学物あるいは環境化学物質をばく露した後の成熟後の行動異常を捉える試験プロトコールを確立するとともに、③遺伝子発現解析や、神経幹細胞動態解析、あるいは神経回路機能解析等により、検出された行動異常に対応する神経科学的物証の収集を重ねている。
本シンポジウムでは、これまでの研究成果に加え、ピレスロイド系農薬として広汎に使用される機会の多いペルメトリンの解析例について報告する。ペルメトリンを低用量にて妊娠期から授乳期の雌マウスに慢性的に飲水投与し、得られた雄産仔マウスについて成熟後の情動認知行動解析を行った結果、軽度の記憶異常が認められた。また、記憶異常に対応する神経科学的物証として、海馬歯状回における神経幹細胞の分化様式への影響が示唆された。
また、本シンポジウムでは、より頑強な毒性評価法としての確立に関わる幾つかの問題点と、その解決にむけた取り組みについて議論したい。