日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S27-4
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シンポジウム 27
飲料水に含まれる六価クロムのリスク評価
*吉田 宗弘
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抄録

 本講演では食品安全委員会六価クロムワーキンググループがまとめた、清涼飲料水の規格基準改正のための「清涼飲料水評価書.六価クロム(2018)」の概要を紹介する。

 六価クロムの多くは、消化管中で吸収率が低い三価クロムに還元されるため、六価クロムの影響は消化管に限定される。六価クロムの経口曝露により、マウスでは小腸、ラットでは口腔粘膜及び舌で、発がん頻度が有意に増加する。ただし、最低用量でみられたマウスの小腸腫瘍の発がん機序としては、六価クロムが小腸上皮細胞に持続的に損傷を与え、陰窩での過形成が起こり、その結果腫瘍形成が促進されたと考えられた。疫学研究において、非職業性曝露では経口曝露量とがん発生率との関連に一貫した傾向がなく、職業性曝露では肺癌等の影響があるが、経口曝露量のみを推定することは困難であるため、六価クロムの飲料水からの曝露についての定量評価を行うことは困難と判断した。

 以上より、六価クロムの飲料水からの曝露評価においては、動物実験から耐容一日摂取量(TDI)を設定することが適切と判断した。2 年間飲水投与試験にベンチマークドーズ(BMD)法を適用して検討し、雄マウスの十二指腸びまん性上皮過形成で最も低いBMD10 値及びBMDL10 値が算出された。この最も低いBMDL10 値(0.11 mg/kg 体重/日)を基準点とし、不確実係数100 を適用し、六価クロムのTDI を1.1 μg/kg 体重/日とした。

 食品中のクロムは三価クロムの状態で存在していると考えて、飲料水(ミネラルウォーター及び水道水)を六価クロムの摂取源と仮定すると、日本人における六価クロムの一日摂取量は、高く見積っても0.290 μg/kg 体重/日である。この値は1.1 μg/kg 体重/日よりも低いことから、飲料水中の六価クロムによる健康影響が生じるリスクは低いと考えられた。

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