アルツハイマー病では脳細胞外液に放出されるアミロイドβ1-42 (Aβ1-42)の可溶性凝集体が神経毒性の原因とされる。亜鉛イオン(Zn2+)はin vitroでAβの凝集を促進することから、脳細胞外液に存在するZn2+がAβ1-42と結合し、神経毒性の原因となると考え検証してきた。Aβ1-42による海馬依存性の記憶障害はAβ1-42誘発性の神経細胞内Zn2+毒性に起因することを明らかにした。すなわち、細胞外Zn2+はAβ1-42と結合しZn-Aβ1-42凝集体を形成すると速やかに神経細胞内に取り込まれ、凝集体から解離するZn2+が神経細胞毒性を示す。また、Aβ1-42誘発性の細胞内Zn2+毒性は海馬神経細胞死を惹起する。一方、細胞内亜鉛結合タンパク質であるメタロチオネインの誘導合成によりAβ1-42誘発性のZn2+毒性は回避される。
パーキンソン病は黒質ドパミン作動性神経の脱落が原因とされ、酸化ストレスがその一因とされる。6-hydroxydopamineやparaquartをラット黒質に投与したパーキンソン病モデルにおいて、黒質ドパミン作動性神経脱落はドパミン作動性神経細胞内Zn2+ホメオスタシス破綻に起因することを明らかにした。すなわち、6-hydroxydopamineやparaquartはドパミントランスポーターを介して黒質ドパミン作動性神経細胞体に取り込まれROSを産生する。このROSは細胞体に投射するグルタミン酸作動性神経終末に逆行性に作用し、グルタミン酸放出を促進させ、グルタミン酸受容体のAMPA受容体活性化を介して細胞外Zn2+を速やかに流入させる。その結果、黒質ドパミン作動性神経が選択的に脱落するが、この脱落は細胞内外で作用するZn2+キレーターで回避される。
アルツハイマー病およびパーキンソン病の防御は細胞内Zn2+毒性の回避が鍵となることを議論する。