日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S28-2
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シンポジウム 28
脳内亜鉛恒常性破綻と神経細胞傷害
*原 宏和
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抄録

 虚血性脳血管障害は日本人死亡原因の上位を占める疾患である。現在でも有効な治療薬は少なく、新規治療薬の開発が望まれているが、虚血後に生じる神経細胞死の分子機構は未だ不明な点も多い。脳虚血時にグルタミン酸作動神経の神経終末に多量に放出される亜鉛(Zn)が神経細胞死を誘導することから、Znは本疾患の増悪因子の一つに挙げられている。一方、脳虚血時に産生される活性酸素種(ROS)や一酸化窒素(NO)などの活性分子種により神経細胞内ストアから放出される内在性遊離Znの増加も神経細胞死と密接に関連している。このように、神経細胞内外で生じるZn恒常性の破綻が神経細胞死を引き起こすことから、この破綻を改善することが出来れば、本疾患の治療につながると考えられる。

 硫化水素(H2S)やその実体であると考えられる活性イオウ分子種(RSS)は、細胞保護作用など多彩な生理作用を有していることが報告されているが、その機序については不明な点も多い。我々は、H2SやRSSがZn曝露後の細胞内Znの増加を抑制し、Znにより惹起される神経細胞死から細胞を保護することを見出した。脳梗塞時に認められるミクログリアの活性化は、NOや炎症性サイトカインの産生を亢進させることから、病態の悪化に深く関係している。ミクログリアの活性化には、ダメージ関連分子パターン(DANPs)に加え、Znの関与も示唆されている。我々は、ミクログリア細胞株HAPI細胞において、Znにより炎症性サイトカインのインターロイキン23 (IL-23)の発現が亢進することを明らかにし、Znが脳梗塞後の炎症を悪化させる可能性を示した。また、活性化ミクログリアからのNO産生を抑制する低分子化合物の探索にも取り組み、HDAC阻害剤のパノビノスタットが強いNO産生抑制作用を有していること見出した。

 本発表では、Zn恒常性破綻が引き起こす神経細胞死の抑制に向けた取り組みについて、我々の研究成果を中心に紹介したい。

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