医薬品等の開発において、種差や個体差の問題の回避が提起されて久しい。非臨床試験における本問題の解決策の一つとして、ヒト初代細胞や幹細胞を用いてこの問題を回避する動きが広まっている。しかし、現状では、種差の問題以上に、in vitroとin vivo試験の壁は高い。その理由の一つは、これまでに開発され、国際的に標準化されたin vitro試験の多くは、局所毒性や遺伝毒性等に限定され、有害性の同定にしか利用できない現状であり、未だにリスク評価には耐えられないからである。
この問題を解決するために、ラットやヒト肝細胞株、ラット凍結肝細胞、ヒト凍結肝細胞およびヒト多能性幹細胞由来の肝細胞など種々の細胞を用いた薬理効果、毒性等の比較研究が進んでいる。さらに、2次元培養では細胞の分化や機能発現が脆弱ということもあり、オルガノイドやスフェロイドを用いた3次元培養などに加え、工学的な研究者との協調により、器官構造を模したモデルを用いて機能発現の更新を目指した研究が進められている。これらの成果により、ヒトとげっ歯類との種差が埋まることを期待している。
曝露評価においても、in vitro生理学的薬物動態モデル(PBPK :Physiologically based pharmacokinetic model)の開発が、Organ-on-a-chipを用いた生体模倣システム(MPS: Microphysiological System)によって進められ、これまでの動物実験結果との比較が始まっている。これにより、薬物の血中濃度の推移がin vitroで外挿できる日も近いと期待している。
これらの質の高いin vivo研究の発展により、in vitroとin vivo試験のギャップが埋まり、新たなリスク評価手法が行政的に認められる日も夢ではなくなっている。