経済協力開発機構(OECD: Organisation for Economic Co-operation and Development)はEAGMST(Extended Advisory Group on Molecular Screening and Toxicogenomics)というプロジェクトにおいて、化学物質のヒトや野生動物への悪影響に関する知識向上のため、毒性発現経路(AOP: Adverse Outcome Pathway)を開発している。AOPとは、化学物質等が個体または集団に有害性をもたらす経路であり、化学物質の曝露から、吸収・分布・代謝の過程、および分子、細胞、組織・臓器・器官、個体に生じる連続的な事象である。AOPは当初、環境毒性の発現経路を明確にするために、米国環境省(US EPA:United States Environmental Protection Agency)で開発され、以後OECDにて採用され、この情報をもとに環境毒性やヒト健康影響に関するin silicoやin vitro試験の開発を促すためにその概念が発展してきた。このプロジェクトは2012年に設置され、US EPAとEU JRC(Joint Research Centre)が中心となって作成ガイダンスや入力フォームAOP wikiやEffectopedia等の開発、AOPの普及・教育が行われてきた。ただし、これまでに成立したAOPはまだ10に満たず、現在、70程度のAOPが開発中であるに過ぎない。OECDのAOPとは、毒性発現までの過程をなるべくシンプルに、枝分かれ少なく記載しようというものであり、MIE(Molecular Initiation Event)から始まり、KE (Key Event)とKER(Key Event relation ship)からなり、AO(Adverse Outcome)に至る。それにより、証拠の重み付け(WoE: Weight of Evidence)が明確になっていくことが期待される。開発者はEAGMSTに申請した後、入力フォームにそれぞれのAOP案を入力し、そのAOPはEAGMSTによる内部評価を受けた後、外部第三者評価を受けて公定化される。
日本においては、このプロジェクトの中で、免疫毒性、発がん性などに関する25本のAOP開発を提案している。残念ながら、まだ成立した日本のAOPはないが、今後、種々の日本発AOPが公定化され、全身毒性試験に関する多くのin silicoやin vitro試験の開発に寄与できることを祈念している。