ヒトに初めて投与する臨床試験に先立ち、薬剤の候補化合物の安全性を評価する目的で、各種の安全性試験が開始される。これには、哺乳動物を用いたin vivoの毒性試験や、細胞を用いた in vitro の試験が含まれる。薬物動態評価についても、1990年代の前半までは実験動物を用いたものに限られていたが、その後ヒトの肝臓試料等が入手可能になり、従来の動物実験に加えて、in vitro のヒトでの代謝試験、毒性研究が大きな比重を占めるようになった。これにより、非臨床の薬物動態試験は、1。毒性試験で用いられた動物とヒトの代謝の類似性を確認して毒性試験の妥当性を示す、2。ヒトの薬物動態をシミュレートして副作用(特に薬物相互作用)を予測する、というようなヒトの安全性を担保する役割を担っている。しかし、その問題点は、均質なヒト肝細胞の試料の安定供給であり、我々の目的である新たなヒト肝細胞の作製は、新規毒性試験のツールを提供することが可能となる。すでに我々は、生体外で成熟肝細胞を肝前駆細胞へとリプログラミングする技術を開発した(勝田、落谷ら、Cell Stem Cell, 2017)。この方法は低分子化合物を用いるだけで遺伝子組み換え操作を伴うことなく安全かつ効率的に、自己複製能をもつ肝前駆細胞を作製できる、画期的な技術である。また、作製した前駆細胞からの機能的肝細胞の誘導も極めて容易であることから、毒性研究はもとより再生医療への幅広い応用が期待される。