新薬の開発では,候補化合物の有効性,薬物動態および安全性を細胞や動物を用いて評価する非臨床試験とヒトにおいてそれらを評価する臨床試験が実施されている.非臨床試験における安全性試験の主目的は,臨床試験参加者の安全性を担保するための適切な用法・用量設定や候補化合物の毒性プロファイルを評価することである.
安全性試験では,実験動物を使用してヒトと同様の臨床検査が行われる.これら検査結果は候補化合物の毒性プロファイルや臨床的意義の総合的判断に用いられるが,動物種差やサンプリングポイントごとに異なる動物を用いる動物実験特有のアーティファクトの存在を考慮する必要がある.また,古典的な臨床検査項目だけでは十分に候補化合物の毒性プロファイルを評価できない場合もあり,新たな検査項目に対する需要が増えてきている.
こういった背景から,微量サンプルを用いた多項目測定機器が開発され,同一動物での複数項目の頻回検査が可能となった.これらの技術により,創薬初期の安全性スクリーニング試験が少数の小動物で実施可能となり,候補化合物のより詳細な毒性プロファイルが把握できるようになった.一方で,これらの多項目測定機器は,精度・感度に問題があり,軽微な変化を正確に評価することは依然として難しかった.
近年,高感度な測定機器が開発され,従来の測定方法の100倍以上の感度での測定が可能となった.今後は,創薬初期に少数の動物での多項目測定により得られた臨床検査値を検討し,毒性ターゲットとなる項目を選定し,これらの項目についてさらに高感度測定により精査することで,安全性試験における毒性プロファイルを明らかにすることが可能になると期待される.
本発表では,上記内容を踏まえた安全性試験における臨床検査の現状と未来について私見を述べる.