主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
[背景・目的] アクリルアミド(AA)はマウスの肺およびハーダー腺に発がん性を有することが知られている。我々はこれまでに、gpt deltaマウスに発がん用量のAAを投与すると、投与後16週目に肺におけるレポーター遺伝子突然変異体頻度(MF)が上昇することを明らかにした。そこで本研究では、ハーダー腺を検索臓器に加え、AAのDNA付加体形成および突然変異誘発性と発がん性との関連を追究する目的で、発がん標的臓器(ハーダー腺および肺)と非発がん標的臓器(肝臓)におけるDNA付加体量、突然変異頻度、変異スペクトラムの変化を比較した。
[方法] 雄性6週齢のF344系gpt deltaマウスに発がん用量のAA(50 ppm)を4、8および16週間飲水投与し、ハーダー腺、肺および肝臓を採取した。凍結保存した臓器の一部を用いてLC-MS/MSによるN7-GA-Guaの測定と、gpt assayおよびSpi- assay による、in vivo変異原性の検索を行った。
[結果] N7-GA-Guaは、投与後4週目からすべての臓器において同レベルで検出され、暴露期間の影響は認められなかった。ハーダー腺および肺では投与後16週目に、gpt MFsが有意に上昇し、G:C-T:A transversionおよび一塩基欠失の頻度が増加した。一方、肝臓でMFsの変化はみられなかった。また、いずれの臓器についてもSpi- MFsの変化は認められなかった。
[考察] ハーダー腺および肺では、投与後16週目に、gpt MFsが上昇し、その変異スペクトラムは高用量のAA投与時と一致した。また、MFsの上昇が発がん標的臓器のみで認められたことから、AAの肺発がん過程にこれらの突然変異が寄与することが強く示唆された。一方、臓器間におけるDNA付加体量に差は認められなかったこと、またその生成量は暴露期間に寄らず変化しなかったことから、長期間の暴露が必要な突然変異の誘発にはエピジェネティクスな変化などの他の要因が寄与する可能性が示唆された。