主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
近年、穀物や食肉などの農産加工品に含まれるマイコトキシンによる健康被害が懸念されている。マイコトキシンは植物中で配糖体として存在するとともに、家畜や人体では薬物代謝酵素による代謝を受け、グルクロン酸抱合体などの代謝物として存在する。これらの代謝物は、内在性あるいは腸内細菌・環境微生物の加水分解酵素により活性型に変換されるリスクがあり、代謝研究に基づいたリスク評価が必要となる。当グループではこれまでに、シトクロムP450 (CYP)、UDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT) および 硫酸転移酵素 (SULT) などの薬物代謝酵素を導入した遺伝子組換え酵母を構築し、従来法よりも簡便に代謝物を調製する技術を確立した[1-3]。本技術はヒトだけでなく種々の動物種由来の酵素を取り揃えているため、初期の代謝スクリーニングから目的代謝物の調製まで幅広い代謝研究ニーズに対応することが可能である。本研究では、これらの薬物代謝酵素発現酵母を用いて、マイコトキシンの代謝物調製を試みた。ゼアラレノンについては、ヒト由来SULT発現株を用いることで、硫酸抱合体の高効率製造に成功した。高価な補酵素であるUDP-グルクロン酸や3’-ホスホアデノシン-5’-ホスホ硫酸を必要としない本技術は、代謝研究の高度化、迅速化および低コスト化を通じて、食品の安全性評価や環境リスク評価に貢献することができる。
[1] 榊利之:P450の分子生物学 第2版, p266-275 (2009)
[2] Ikushiro et al., Mol.Pharmaceutics, 13, 2274-2282 (2016),
[3] Nishikawa et al., Appl Microbiol Biotechnol 102:723-732 (2018)