主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
[諸言]世界初のCAR-T細胞薬が国内でも承認され,様々な腫瘍を標的とする新しいCAR-T細胞薬の開発が期待されている.医薬品と同様にCAR-T細胞薬も臨床試験前に安全性が担保される必要があるが,現在,広く利用されている免役不全マウスへのヒトCAR-T細胞の投与モデルでは,薬効・薬理評価は可能であっても,毒性の評価までは困難である.そこで我々は,1) ドナーとレシピエントの種が一致した自家モデル,2) ヒトとの抗原相同性が高い霊長類モデル,3) 用量設定試験が可能な大動物モデルを用いた非臨床安全性評価系の確立を目指し,AMED「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業」の一環として,日本初の霊長類を用いた遺伝子改変細胞等の実用化に向けた非臨床安全性試験を行うオープンラボを設立した.今回は,その中で実際に行ったカニクイザルを用いた新規CAR-T細胞の安全性試験の一例を報告する.
[方法]信州大学で開発を進めているGM-CSF受容体(GMR)CARトランスポゾンベクターを用いて,3匹のカクニイザルの末梢血からGMR CAR-T細胞を作製した.ドナーとなった動物へ,それぞれ3×105 cells/kgで自家GMR CAR-T細胞を静脈内投与し,その後,一般状態,体重,摂餌量,血液学的検査,血液生化学的検査,サイトカイン測定,TK測定を行い,投与2週間後に剖検して病理組織学的検査を実施した.
[結果]自家GMR CAR-T細胞を投与したカニクイザルの全例の末梢血からGMR CAR-T細胞が検出された.そのうち1例ではCRPとIL-6の軽度の上昇がみられたものの,顕著な毒性変化は認められなかった.これらの結果は,CAR-T細胞の毒性評価における,霊長類自家モデルの活用可能性を示しており,今後,アカデミアや国内企業が広く利用できる国内基盤として,さらなる整備を進めていく.