主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
【目的】最近、生活空間で使用される香料などが原因と考えられる健康被害の報告が増加している。その発症機序の一つとして、感覚神経に発現する侵害受容体TRPイオンチャネルが関与する可能性が示唆されている。我々は、香料としても使用されるテルペン類やバニロイドによるTRPA1活性化を明らかする過程で、ヒトTRPA1 (hTRPA1) およびマウスTRPA1 (mTRPA1) に対する活性化能に顕著な違いがみられる化合物が存在することを見出した。本研究では、フェルラ酸およびその類縁化合物について、TRPA1活性化の種差ならびにその機序について検討を行った。
【実験方法】hTRPA1の5番目の膜貫通領域に存在するアミノ酸を相互に入れ替えた変異体 (hTRPA1/V875GおよびmTRPA1/G878V)、ならびに野生型hTRPA1および野生型mTRPA1を安定的に発現するFlp-In 293細胞を96-wellプレートに播種して一晩培養した。細胞内カルシウム蛍光指示薬を添加してさらに2時間培養したのちに、被験物質の曝露による蛍光強度の変化をマイクロプレートリーダーで測定した。
【結果と考察】フェルラ酸およびその類縁化合物 (6化合物) によるTRPA1活性化の種差を検討した結果、Methyl Ferulate (MF)、Ethyl Ferulate (EF) はhTRPA1およびmTRPA1の両者を活性化したが、いずれの場合もhTRPA1の方が低濃度で活性化が認められた。MentholによるTRPA1活性化の種差に関与することが明らかにされているV875Gの変異では、MFおよびEFに対するTRPA1の応答をヒト型からマウス型に転換することはできなかった。したがって、MFおよびEFによるTRPA1活性化の種差はMentholとは異なるアミノ酸残基との相互作用によって生じていると考えられる。