主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
水俣病の原因物質として同定されたメチル水銀(MeHg)は神経細胞死を誘導し,特定の組織領域を傷害することが知られている.しかし,細胞死に至る詳細な分子機構については未だ統一した見解が得られていない.当研究室ではこれまでに,MeHgによる小胞体(endoplasmic reticulum : ER)ストレス惹起によってアポトーシスが誘導されることを細胞レベルで明らかにしてきた.そこで,本研究ではMeHg誘導性神経細胞死におけるERストレスの寄与について,in vivoレベルで解析するためにERストレス可視化マウスを用いて検討を行った.
ERストレス下では,小胞体膜タンパク質inositol-requiring enzyme 1 α(IRE1α)依存的なx-box binding protein 1 (XBP1) mRNAのスプライシング亢進が観察される.本反応を利用したER stress activated indicator (ERAI) 遺伝子を発現させたトランスジェニック(Tg)マウスでは,生体内ERストレス惹起を発光および蛍光シグナルにより可視化することが可能である.そこで,ERAI-TgマウスにMeHgを急性曝露(単回皮下投与)または慢性曝露(飲水投与)させたところ,脳内でERストレスシグナルが観察された.興味深いことに,シグナルが認められたのはMeHgによって傷害を受けることが報告されている体性感覚皮質の神経細胞であった.このことから,MeHg誘導性ERストレスには部位特異性および細胞特異性があることが明らかとなった.加えて,MeHgによるERストレス惹起は神経細胞死より早期に観察された.以上の結果より,MeHg誘導性神経細胞死においてERストレスが関与している可能性が示唆された.現在,生体内ERストレス惹起の選択性について詳細な解析を進めているところである.