日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S17-1
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シンポジウム17
発生発達期暴露による情動認知行動毒性の背景とその評価系に関する国際的動向
*菅野 純
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抄録

 従来の毒性が「外来性化学物質が標的分子に作用して機能障害や細胞死を引き起こす」のに対し、シグナル毒性は「外来性化学物質が受容体等に作用し、標的細胞・組織に間違ったシグナルを伝えた結果として生じる有害事象」と定義できよう。その中で特に不可逆的な影響が残るのは、発生発達成熟(周産期)の「臨界期」とされる時期にシグナル毒性が及んだ組織、臓器である。

 周産期の中枢神経系をシグナル毒性の立場から考察すれば、不可逆的影響を誘発し得る外来性化学物質の種類は、そこで様々な臨界期をもって使われるシグナル系の数を下回らないという事が想定される。欧州においては、様々なin vitro 試験系を組み合わせ、特に「ヒト由来」の細胞を用いる試験を取り入れることで、齧歯類との種差を勘案し、化学物質が持つ発達神経毒性を決定する決定樹を提案している。それらのin vitro試験にはcytotoxicity から細胞分化までが含まれ、必ずしもシグナル毒性に特化したシステムではない。また、最終的に残った判定はin vitro試験系で判明した毒性機構に焦点を絞ったラットin vivo試験を実施して判定するとされている。この決定樹に基づく評価系と、OECDの発達毒性試験TG426との関係は不明瞭で、TG426に例示されているin vivo試験系の実施が極めて困難で評価に耐えるデータを得難い点が問題となっている。ここでは、OECDに対してこのTG426の in vivo試験系に加える形で、少数の動物で短時間に完結する情動認知行動バッテリー試験を種村らが中心に提案している。欧州においても毒性評価に当たるRegulatorはin vivo試験の情報を尊重しており、種村案が支持される側面がある。

 本シンポジウムでは、各方面からの最新の知見による学術的基盤の更なる強化を頂き、今後の国際対応の強化に資する事が出来れば幸甚である。

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