日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S16-4
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シンポジウム16
ヒト型胎盤内分泌機能を持たせたヒト化マウスにおける生殖発生毒性
*中西 剛
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抄録

胎盤は妊娠期間中の重要な内分泌組織であるが種差が大きく、ヒトと齧歯類では母体-胎盤-胎仔間のステロイドホルモン動態がかなり異なる。特に胎生期のエストロゲンレベルについては、ヒトでは高値となるが齧歯類ではヒトの1/50~1/100程度と低値である。これはヒトにおいて胎盤が主要なエストロゲン産生(アンドロゲン代謝)臓器として機能するのに対し、齧歯類の胎盤にはエストロゲン合成酵素(アロマターゼ)が存在しないため、エストロゲン産生が行われないことに起因する。このことは胎盤内分泌機能の種差に作用する化学物質の生殖発生毒性については、ヒトへの外挿が困難である可能性を示唆している。またエストロゲン様化学物質の胎生期曝露が生殖系に不可逆的な影響を及ぼす可能性が懸念されているが、エストロゲンレベルが大きく異なるにも拘わらず双方で恒常性が保たれている理由など、胎生期におけるエストロゲンシグナルの生理学的意義に関する学術的基盤は未だに脆弱であり、エストロゲンシグナルのかく乱の影響ついても不明な点が多く残されている。

本研究では、胎生期におけるヒトとマウスのエストロゲン感受性の違いや胎盤機能修飾による影響を検討する目的で、レンチウイルスベクター(LV)による胎盤特異的遺伝子導入法を用い、胎盤にヒトアロマターゼ(Arom)を発現させたヒト型胎盤内分泌機能を有するモデルマウスを作製した。Aromを発現するLV(AromLV)を胚盤胞期胚に感染させて、偽妊娠マウスに胚移植を行ったところ、AromLV感染胚由来の胎盤、胎仔では野生型LVで処置した胚を移植した場合と比較して100倍以上のエストロゲン高値となり、ヒトのエストロゲンレベルを再現することに成功した。本講演では、このモデルマウスの表現型について紹介するとともに、ヒトと齧歯類における胎盤機能修飾やエストロゲンシグナルのかく乱による内分泌かく乱作用の種差ついても議論したい。

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