主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
メチル水銀は脳神経系をはじめとする様々な臓器に傷害をもたらす。メチル水銀は様々なタンパク質に結合し、その機能を失活させる。その結果、変性タンパク質が細胞内に蓄積する。生体はこれらの蓄積を防ぐため、細胞内分解系を働かせ、細胞を保護している。細胞内の主要な分解機構の一つとしてオートファジーがあげられる。我々は、これまでに低濃度メチル水銀がオートファジーレセプター分子sequestosome1/p62(p62)の発現を増加させることを見出した。現在、生体におけるp62を鍵分子とするオートファジーは、メチル水銀に対する防御機構の一つであると考えている。
マウス線維芽細胞(野生型MEF)における低濃度メチル水銀の影響を調べたところ、小胞体ストレス応答の指標であるCHOPやGADD34 mRNAの発現が誘導された。一方、p62欠損細胞(p62KO MEF)では野生型MEFと比べてこれらの遺伝子発現誘導が有意に上昇することを見出した。さらに、p62KO MEFにGFP-p62を外来的に発現させると、メチル水銀処理によるCHOPやGADD34 mRNAの発現誘導が野生型MEFとほぼ同等となった。また、p62KO MEFにおいては、野生型MEF細胞に比べてユビキチン化タンパク質が増加した。これらの結果から、p62はメチル水銀により産生される細胞質のユビキチン化タンパク質の増加を抑制するのみならず、メチル水銀による小胞体ストレスから回復するためにも重要な役割を果たしていることが明らかになった。本シンポジウムでは、低濃度メチル水銀によるオートファジーの活性化と小胞体ストレス応答におけるp62の役割を中心に紹介する。