日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S19-2
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シンポジウム19
メチル水銀による末梢感覚神経毒性の発現機構~ラットを用いた研究
*篠田 陽山田 裕大恒岡 弥生高橋 勉吉田 映子鍜冶 利幸藤原 泰之
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抄録

環境汚染物質であるメチル水銀の曝露は、手足のしびれなどを伴う中枢―末梢の多発神経障害を出現させるが、末梢神経におけるメチル水銀毒性の発現メカニズムは未だ解明されていない。そこで本研究では、メチル水銀がどのような機序で末梢神経毒性を発現するかを明らかにする目的で研究を行なった。

9週齢雄Wistarラットを用い、塩化メチル水銀水溶液 (6.7 mg/kg/day) を、胃ゾンデを用いて5日間投与2日間未投与とするサイクルを2回、計2週間行なった。投与開始直後より、体重測定と後肢交差の確認を行なうとともに、行動解析として侵害刺激、圧力刺激、温・冷感刺激に対する応答解析を1日1回、70日間行なった。また投与開始7、14日目に腰椎L4より後根神経節(DRG)を摘出し、得られたtotal RNAを用いてDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行なった。さらに、投与開始7、14日目に4% PFAを還流して組織を固定し、DRGおよび末梢感覚神経・運動神経を摘出した後、免疫組織化学的手法を用いて種々の組織学的解析を行なった。

メチル水銀投与開始2週目より体重減少と後肢交差応答が観察された。また投与開始14日目の感覚神経にのみ軸索損傷が観察され、DRGにおいても神経細胞の脱落が観察された。行動解析の結果、異なる感覚モダリティのメチル水銀感受性および感覚傷害後の回復に時間的差異が見られた。DRGに存在する細胞群を免疫組織化学的に分類して解析したところ、神経細胞の種類によるメチル水銀毒性の差は観察されなかったが、ミクログリア/マクロファージの増殖と活性化、およびシュワン細胞の増殖が観察された。また、網羅的遺伝子発現解析によりTNF-αおよびTLRシグナル経路の関与が示唆された。以上の結果より、メチル水銀による末梢神経障害が炎症反応を介して発症している可能性が考えられた。

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