日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S20-3
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シンポジウム20
iPS心筋細胞のインシリコモデルを用いた心毒性リスク評価
*芦原 貴司
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抄録

近年,創薬にかかる安全性薬理・毒性試験において,経費のかかる動物実験や臨床試験の一部をヒトiPS細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)やin silico(コンピュータシミュレーション)を用いた実験で置き換えようとする動きが拡がりつつある.その一方で,hiPSC-CMの電気生理学的特性が,オリジナルの心筋細胞とは異なることが知られるようになった.実際,hiPSC-CMはヒト心室筋細胞(hVCM)に比べて,活動電位時続時間が長く,活動電位波高が低く,静止膜電位が浅く,自動能を有するという違いが指摘されている.そこで我々は,ヒト心室の電気生理学的特性を忠実に再現したin silico hVCMと,hiPSC-CMの電気生理学的特性をin silicoで忠実に再現した仮想モデル(viPS)を共通構造のもとで構築することで,その両者の違いを分子・細胞・組織レベルで把握するとともに,その溝を埋めるための方策をin silicoのみで検討することを発案した.そうした検討を続けるなかで,hiPSC-CMは幼若化細胞の特徴を有するがブラックボックスな要素が多いこと,細胞内外のイオン濃度が異なる可能性のあること,hiPSC-CMシート(組織レベル)では興奮伝播速度も組織興奮性も落ちること,その結果,頻脈性不整脈の基本メカニズムである興奮旋回(リエントリー)は性質が異なること等が分かった.hiPSC-CMを安全性薬理・毒性試験に応用する際には,そうした違いをどのように埋め,評価するのかを理解する必要があり,そうした評価にはviPSのようなアプローチが有用と考えられる.

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