日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-119
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ポスターセッション
血小板由来増殖因子による血管平滑筋細胞遊走におけるサルフェンイオウの役割
*芦野 隆石井 俊一沼澤 聡
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抄録

血管平滑筋細胞(VSMC)は、活性酸素種(ROS)をセカンドメッセンジャーとして利用することで遊走の強度と方向性を調節し、血管傷害後の修復に寄与する。一方で、レドックスバランス破綻による酸化ストレスは、VSMCの機能障害を引き起こし、動脈硬化の発症と進展の原因となる。サルフェンイオウを含有する活性イオウ分子は、その高い求核性から強い抗酸化作用を有し、生体の恒常性維持に貢献していることが示唆されている。そこで本研究では、血小板由来増殖因子(PDGF)によるVSMC遊走における活性イオウ分子の役割について検討を行った。細胞内サルフェンイオウドナー(donor 5aおよびNa2S4)の処置は、PDGFによるVSMCの遊走を有意に抑制した。PDGF刺激によるVSMC遊走は、ROS産生を介して増強される。そこでPDGFにより誘導されるROSの変化を調べたところ、サルフェンイオウドナーは、VSMCにおいてROS産生に関与するNADPHオキシダーゼの構成分子Rac1の活性化を抑制することなく、細胞内ROS量を減少させた。次にPDGFのシグナル伝達および細胞接着斑形成における活性イオウ分子の役割について検討した。サルフェンイオウドナーは、PDGFのシグナル伝達因子の一つであるAktのリン酸化を抑制し、またビンキュリンとパキシリンのリーディングエッジへの移行を抑制することで、細胞遊走に必須である細胞接着斑の形成を阻害した。以上の結果から、活性イオウ分子は、PDGFにより生成したROSの消去機能を介して、下流のシグナル伝達と細胞接着斑の形成を抑制し、VSMCの遊走を制御することが示唆された。本研究により、活性イオウ分子が血管傷害後の内膜肥厚と動脈硬化に対する治療ターゲットとなる可能性が示された。

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