【目的】Cdは環境中に広く分布する有害金属であり、生体に様々な影響を及ぼすことが知られている。また近年、エコチル調査により、血中Cd濃度と早期早産に関連性があることが見出された。早期早産は、その原因の一つである妊娠高血圧症候群(HDP)において、胎盤Cdがリスク因子であることや、動物実験レベルでCdがHDPを引き起こすことから、微量CdによるHDP発症がその原因であると思われる。そこで本研究では、HDPが胎盤形成不全による胎盤虚血により引き起こされることに着目し、Cd曝露によるヒト胎盤形成過程への影響を評価した。
【方法】ヒト胎盤絨毛癌由来BeWo細胞および胎盤幹細胞モデルである栄養膜幹細胞CT27細胞を用いた。BeWo細胞はフォルスコリン処理によって合胞体化を誘導した。CT27細胞は、分化誘導プロトコルに従った培養条件により絨毛外性栄養膜細胞および合胞体性栄養膜細胞への分化を誘導した。その後、リアルタイムPCR法により、各種分化マーカーの測定を行った。
【結果・考察】
BeWo細胞、CT27細胞ともに、各分化マーカーの発現がCdによって阻害されたことから、Cdは栄養膜幹細胞の分化を阻害することでHDP発症の要因となる可能性が示唆された。また、BeWo細胞の合胞体化はプロテインキナーゼA阻害剤H-89で阻害されることが知られているが、Cdによる分化阻害へのH-89の増強効果を調べたところ、発現がより阻害される分化マーカーとそうでないものが認められた。この結果は、Cdの分化阻害機序解明の手掛かりとなると考えられる。現在、胎盤分化に関わる転写因子GCM1の発現や、各分化マーカー発現の経時的変化への影響評価を進めることで、Cdの作用点解明を目指している。