化学物質による呼吸器感作は鼻炎や喘息の一因とされ、公衆衛生上の問題となる。しかしながら、公的に認められた呼吸器感作性試験は存在しておらず、その開発が望まれている。呼吸器感作性試験の開発においては、既に確立された皮膚感作性試験の応用が有用であると考えられることから、本研究ではTHP-1細胞の表面抗原の発現を指標とする皮膚感作性試験h-CLATにヒト気管支上皮3D培養モデルを組み合わせた試験法の開発に取り組んだ。これにより、呼吸器特異的な免疫応答をin vitroで再現し、Th2優位とされる呼吸器感作性物質の検出、さらにTh1優位とされる皮膚感作性物質との判別を試みた。
THP-1を培養するウェルにインサート上で培養した気管支上皮3D培養モデルを組み合わせることで共培養系を用意した。皮膚感作性物質2化合物および呼吸器感作性物質6化合物を選択し、培地への添加により曝露を行った。24時間後にTHP-1を回収し、h-CLATの評価指標であるCD86およびCD54の発現量を解析するとともに培養液中のIL-8濃度を測定した。その結果、THP-1の単独培養と比較して、共培養では無処理群でもTHP-1におけるCD54の発現上昇が観察された。さらにh-CLATの判定基準で評価した場合、呼吸器感作性物質であるHBTU、TBTUが共培養でのみ陽性を示し、また呼吸器感作性物質であるAbietic acidについては共培養でのみIL-8の分泌が有意に上昇した。これらの結果から共培養系が呼吸器感作性物質の検出に有用となる可能性が示唆された。一方、Th2反応の誘導に重要とされるOX40Lの発現状態をTHP-1で解析し皮膚および呼吸器感作性物質の判別を試みたが、呼吸器感作性物質への特異的な発現変化は見られなかった。したがって、さらなる試験法の最適化が必要と考えている。