【背景・目的】我々は、生後に海馬歯状回で始まる神経新生が、発達神経毒性の高感度エンドポイントとなる可能性があることを報告してきた。鉛(Pb)は、ヒトに発達神経毒性を引き起こすことが証明されている金属である。我々は既にラットに対するPbの発達期曝露による海馬歯状回での神経新生障害を見出している。本研究では、海馬神経新生が生後に持続することに着目して、Pbについてラットを用いた一般毒性試験の枠組みでの28日間投与による海馬神経新生障害の検出性について検討した。
【方法】5週齢の雄性SDラットに対し、酢酸鉛(PbAc)を0、0.4及び0.8%(v/v)の濃度で飲水に混じて28日間反復投与した。免疫染色により歯状回顆粒細胞層下帯 (SGZ)/顆粒細胞層 (GCL) における神経新生の各段階の細胞数、シナプス可塑性関連指標、歯状回門部でのGABA性介在ニューロン、グリアの陽性細胞数を解析した。また歯状回でのリアルタイムRT-PCRにより関連指標の遺伝子発現解析を行った。
【結果】PbAc投与により両群で脳絶対重量が低下した。顆粒細胞系譜ではTBR2+細胞が高用量群で減少し、両群でNeuN+未熟ないし成熟顆粒細胞とARC+顆粒細胞の数が増加した。高用量群で門部のGFAP+アストロサイト数が増加した。介在ニューロン関連ではCALB2+細胞数が高用量群で増加した。遺伝子発現では、酸化ストレス関連ではMt1、Gsta5、Hmox1の発現が増加、化学伝達物質関連ではIl6の発現が増加した。
【考察】PbAcのラットに対する28日間反復飲水投与により、神経炎症に伴う酸化ストレスに起因してtype-2b神経前駆細胞への分化抑制が示唆され、NeuN+顆粒細胞とARCを介した顆粒細胞のシナプス可塑性の増加は代償性に増加したCALB2+介在ニューロンシグナルによるものと考えられた。