【背景】げっ歯類へのlipopolysaccharide (LPS) の発達期曝露は、細菌感染による神経炎症に起因した自閉症モデルとされる。本研究では、胎生期LPS曝露による行動障害と海馬神経新生障害に対する、抗酸化物質であるα-glycosyl isoquercitrin (AGIQ)投与による改善効果を検討した。
【方法】妊娠ラットを溶媒対照群、LPS群、LPS+AGIQ群 (AGIQ群)に分けた。LPSは妊娠15、16日に50 µg/kgを腹腔内投与した。AGIQは母動物に妊娠10日目から分娩後21日目まで0.5%の濃度で混餌投与し、引き続き児動物に生後21日目 (PND 21) からPND 77まで同様に投与した。雄児動物について行動試験、脳組織の酸化ストレス解析、海馬の神経新生解析を実施した。
【結果】PND 10の超音波発声試験、春期発動期のオープンフィールド試験 (OF)、社会的相互作用試験 (SI)、文脈的恐怖条件付け試験 (CFC)、成熟期のSIに変動はなかった。LPS群で成熟期のOFで自発運動の低下、CFCで恐怖記憶獲得障害が生じ、AGIQ群で改善した。PND 6とPND 21で炎症や酸化ストレス指標はいずれの群も変動しなかった。海馬顆粒細胞系譜はLPS群でPND 21にtype-2b細胞、PND 77にtype-1~type-2a細胞が減少したが、AGIQ群で回復または回復傾向を示した。GABA性介在ニューロン指標は、LPS群でPND 21とPND 77にGAD67+細胞が減少したが、AGIQ群でPND 77に回復した。LPS群でPND 21にSST+細胞の減少傾向とAGIQ群で回復傾向を認めた。シナプス可塑性とBDNF関連指標は、PND 21ではLPS群でFOS+顆粒細胞とFosが減少し、AGIQ群で回復した。PND 77ではLPS群で複数の遺伝子発現の減少がみられたが、AGIQ群でFosのみが回復した。
【考察】胎生期のLPS曝露は、進行性の神経新生障害を誘発した。LPSは成熟時の行動異常を誘発したが、炎症反応が異常の直接の原因にはならないことが示唆された。AGIQはLPS曝露によって傷害された顆粒細胞系譜、介在ニューロン、シナプス可塑性の回復を示した。