我々は動物実験を伴わない化粧品素材の安全性保証に用いられる、次世代のリスク評価手法の開発に取り組んでいる。その中で、トランスクリプトームなどの遺伝子応答性の解析は、化学物質の生体への反応性を網羅的に評価することができる有用なツールになると期待している。共同研究者の藤渕等のグループでは、未分化なヒトES細胞に対する化学物質による遺伝子変動を機械学習を用いて解析することにより、化学物質が持つ毒性ポテンシャル(神経毒性や発がん性)を高い確度で予測する系の構築に成功している(Yamane et al. Nucleic Acids Res. 2016)。
今後、多くの化学物質の遺伝子変動がデータベース化されることで、評価したい化粧品素材の毒性ポテンシャルを網羅的に評価することが可能となることが期待されるものの、本試験系はヒトES細胞を用いられており、汎用化されるには、規制や倫理的な問題をクリアする必要がある。そこで、本研究においては、ES細胞と共に分化能を有するiPS細胞において、ヒトES細胞と類似の細胞応答性を示すiPS細胞株を見出すことを目的として検討を行った。
京都大学で樹立された健常人由来iPS細胞株28株について、過去にヒトES細胞でデータが取得されている毒性カテゴリ(肝毒性、腎毒性、神経毒性、心毒性など)の異なる20物質に対する毒性感受性を指標にスクリーニングを実施し、最も類似度が高い応答性を示す細胞株の同定に成功した。また本発表においては、ヒトES細胞において取得されたデータとの相互利用が可能かについて、ヒトにおいて肝毒性を示す化合物にて検証した結果を紹介する。