日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: S29-2
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シンポジウム29
口腔常在微生物叢の正常像および疾患との関連
*竹下 徹
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抄録

口腔の内表面には数百種、兆を超える数の微生物が腸管とならび複雑な常在微生物叢を構築して生息している。歯科の二大疾患であるう蝕(むし歯)と歯周病の病原菌も常在細菌の一種であり既に特定されているが、最近では取り巻く様々な常在微生物も含めた微生物叢全体として発症に関わっているという考え方が主流になりつつある。また常時飲み込まれている口腔微生物の全身の健康状態への寄与も近年注目を集めており、口腔常在微生物叢の全体像とその動態の正確な理解が急がれている。

我々は網羅的細菌群集解析法を駆使した口腔常在微生物叢の分子疫学的調査を積み重ねることで正常な微生物構成の幅の理解と疾患関連パターンの特定を進めてきた。なかでも2000名を超える地域住民を対象として行った大規模口腔常在微生物叢調査ではほとんどの人の口腔にも共通して存在するコア細菌種を同定するとともにそれらが二つの共存細菌群に分類されることを見出した。さらに口腔疾患を有する者ではこの二つの共存細菌群のバランスが異なることを明らかにした。この結果は微生物叢を健康パターンに誘導する新しい予防歯科アプローチの可能性を示唆しており、その実用化に向け現在更なる研究を進めている。さらにこうした微生物叢の変化が誤嚥性肺炎をはじめとした他臓器に与える影響も徐々に明らかとなってきている。一方、こうしたコア細菌種が口腔から失われ、外来種の異常増殖が認められる口腔常在微生物叢の破綻症例についてもいくつか報告している。

本講演では口腔常在微生物叢というシステムの捉え方について我々の得た知見を中心に概説する。

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