日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: S29-4
会議情報

シンポジウム29
腸内細菌叢と肝疾患 ~肝性脳症~
*大谷 直子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

腸内細菌の産生する代謝物質はそのほとんどが、吸収され門脈等を介して肝臓に運ばれ、さらに肝臓で様々な代謝を受けたのち、通常無害な状態となって全身循環系へ移行する。このように腸と肝は解剖学的にも生理学的にも密接に関係していることから、この関係性は「腸肝軸」と呼ばれ、腸内細菌の産生する代謝物質の肝臓病態への影響が注目されている。肝性脳症は肝硬変の末期合併症で、著しい肝機能障害のため、ウレアーゼを有する腸内細菌が産生するアンモニアが肝臓で無毒化されないまま、シャント血流により全身循環系に流れ込み、高アンモニア血症となる病態で、アンモニアは血液脳関門を通過し、脳障害をおこすために脳症が生じる。今回、私たちは、肝性脳症患者の腸内細菌叢を解析するにあたり、特に高アンモニア血症の治療薬として用いられる難吸収性抗生剤、リファキシミンの応答性に着目し、腸内細菌叢の16SrRNA遺伝子の次世代シーケンス結果を用いてQiime2解析を実施し、Lefse解析によって、健常者と比べて、リファキシミン著効例、非著効例で有意に多く存在する肝性脳症の原因となりうる腸内細菌種を探索した。その結果、リファキシミン著効例(高アンモニア血症の改善例)とリファキシミン非著効例(高アンモニア血症が改善しなかった症例)で、異なる菌が抽出された。リファキシミン著効例で同定した菌を、四塩化炭素投与による肝硬変モデルマウスに2週間服用させたところ、高アンモニア血症が生じ、この菌が高アンモニア血症の原因菌のひとつであることが明らかになった。興味深いことにこの菌は、もともと口腔細菌として知られており、プロトンポンプ阻害薬を内服している患者の腸内で顕著に増加してしており、胃酸バリアを突破して腸内で生着した可能性が示唆された。

著者関連情報
© 2021 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top