日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: S7-3
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シンポジウム7
抗PEG抗体誘導の種差と薬物動態への影響
*石田 竜弘
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抄録

Accelerated blood clearance (ABC) 現象は、ポリエチレングリコール (PEG) 修飾リポソーム (PEG-Lip) を繰り返し投与した際、2回目投与 PEG-Lipにおいて、従来の高い血中滞留性が損なわれ、血中から速やかに消失する、という現象として2000年にオランダのグループによって報告された。近年同様の現象がPEG修飾リポソームだけでなく、PEG修飾タンパク、PEG修飾アプタマー、PEG修飾ミセル、PEG修飾ウイルスにおいても生じることが報告されている。PEGは両親媒性の高分子であり、ナノキャリアやウイルス、さらにはタンパク、核酸などに被飾することで、その生体内安定性を高めるとともに抗原性を減少させることから、広く利用されてきた。また、PEG自体も抗原性や毒性が低いということで、医薬品や香粧品の添加物としても用いられてきており、このようなPEGに対して免疫反応が生じるという報告は驚きをもって迎えられた。

当研究室では、ABC現象発現機構の解明を目指し、PEG修飾リポソームを中心としてこれまで検討を重ねてきた。その結果、①初回投与PEG修飾リポソームがT cell independent (TI)抗原として作用し、PEGに対する抗体(抗PEG IgM)の分泌が誘導される事、②この抗PEG IgMの誘導には脾臓辺縁体のB細胞 (MZ B cell) が重要な役割を果たしている事、③誘導された抗体が血中に存在している間にPEG修飾リポソームを投与するとPEGに抗体が結合し、補体系の活性化が誘導され、結果としてPEG修飾リポソームが異物としてKupffer細胞に取り込まれる事、などを明らかにしてきた。

さらに、最近の検討では、既に市販されているPEG修飾タンパク製剤に対しても、投与条件や投与量によっては抗PEG IgMが誘導されること、また何らかの原因で既に抗PEG抗体の誘導が生じている個体に対してPEG修飾タンパクを投与するとその血中滞留性が顕著に減弱され、期待される薬効が得られない可能性があることも示した。実際、日本赤十字社から供与された献血血液を用いた検討で、一定数の抗PEG IgMキャリア(保有者)が存在することを確認しており、このようなヒトにPEG修飾タンパク製剤を投与しても薬理効果が得られない可能性が高い。また、今後投与が開始されるコロナワクチンに関しても、PEG修飾lipid nanoparticle (LNP)が含まれており、抗PEG抗体の誘導と、誘導された抗PEG抗体による別のPEG製剤への影響が懸念されている。このような事態は患者の治療機会を奪うだけでなく医療経済上でも大きな問題をはらんでおり、看過できない課題である。

本発表では、データは少ないが、抗PEG抗体の誘導における種差に焦点を当てる。製剤開発における、前臨床試験時の有益な情報となれば幸いである。

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