抗体医薬品の非臨床安全性試験では、ヒトのターゲット分子を認識する抗体が交差反応することの多いサルを用いることが一般的である。ICH S6ガイドラインは、サロゲート抗体は品質や薬物動態並びに厳密な意味での薬理作用機序が異なっている可能性を指摘しており、ヒト用の抗体医薬品をサルに投与する試験が、その動物にとっての相同タンパク質をターゲットにしたサロゲート抗体や、ターゲット分子を発現するトランスジェニック動物を用いる試験よりも優先すべきことを推奨している。この考え方は合理的かもしれないが、現在では抗体の精製工程はかなり定型化されており、サロゲート抗体だからといって品質が大幅に劣ることは考えにくい。また、サルにとってヒト用抗体医薬品はFc機能などが自身のものとは異なるサロゲート抗体であり、動態や薬理作用機序が厳密な意味でヒトと同一にはならない。このため、抗体医薬品そのものを被験物質として用いても、抗CD28抗体TGN1412のように、人における致死的な副作用をサルでは検出できないということが起きる。TGN1412のサル28日間試験におけるNOAELは50mg/kg以上と判断され、十分なセーフティーマージンを取って0.1 mg/kgがヒト臨床初回用量として選択された。その結果、投与された被験者全員がサイトカインリリースシンドロームに陥り、危うく命を落とすところだった。これは極端な例であるが、抗体医薬品ではサル試験の結果からヒトの副作用をどれほど予測できているのか、予測が難しかった例が他にもあるのかは、抗体医薬品開発に携わる毒性学者として気になるポイントである。ここでは、サル試験成績のヒトへの外挿性について整理し、サルをどのように非臨床安全性評価に使うべきかを考える。