転写産物などの生体分子を網羅的に測定するオミックス解析は今や生物学研究において確固たる地位を築いており、毒性学においては化合物などの異物が体内でどのように毒性を発現するのかを推定する上で重要な手段の一つとなっている。特に近年では、Garuda(www.garuda-alliance.org)に代表されるオープン解析プラットフォームや各種ウェブアプリケーション、解析ソフトウェアなど、オミックスデータの解析結果を解釈する上で強力なツールが数多く存在する。
発表者らは、これまでに様々な低分子化合物を投与したマウスにおける遺伝子発現プロファイルであるPercellomeデータ[1]をGarudaを用いて解析することにより、その毒性発現機構の推定をおこなってきた。本発表では、フェンネルやバジルといった香草に含まれるフェニルプロペンの一種であるエストラゴールが惹起する遺伝子発現プロファイルの解析結果を紹介する。エストラゴールはげっ歯類において発ガン性が報告されているが、ヒトにおける毒性については確認されていない。さらに、本解析によりエストラゴールがPPARα(Peroxisome Proliferator Activated Receptor Alpha)リガンドとして働く可能性が示唆されていることから、発表者らがこれまでに解析を行った他のPPARαリガンドの遺伝子発現プロファイルとの違いを考察し、エストラゴールの毒性発現機構の推定とその発ガン性のリスク評価をおこなう。
[1] Kanno J. et al., J. Toxicol. Sci. 2013;38(4): 643-654