主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【目的】毛髪タンパク質の主成分であるケラチンは、システインを約18%と非常に多く含む特徴を有する。このCysは、ジスルフィド (R-SS-R')結合によりケラチン分子間を架橋し、毛髪の強靭さに関与していると言われている。また、紫外線はこのR-SS-R'を開裂することで毛髪損傷を引き起こすため、架橋構造の保護は毛髪損傷防止につながる。ところで、チオール (R-SH)やR-SS-R'に更に硫黄原子が付加したR-SSHあるいはR-SSS-R'などの超硫黄分子が近年注目を集めている。特に、タンパク質の超硫黄分子は、そのタンパク質構造の柔軟性を生み出すだけでなく、高い抗酸化能を新たに獲得することが報告されている。しかしながら、毛髪中ケラチンにおける超硫黄分子の存在は明らかにされていない。そこで我々は、毛髪中の超硫黄分子を測定し、毛髪強度との関連性や抗酸化能について評価した。
【方法】毛髪の超硫黄分子の定量はElimination Method of Sulfide from Polysulfide (EMSP)で行った。抗酸化試験は紫外線照射、脱色剤の主成分である過酸化水素を処理することで評価した。
【結果・考察】EMSPの結果から、毛髪中には超硫黄分子が含まれることを初めて明らかにした。加えて、紫外線照射や過酸化水素などの酸化ストレスによって毛髪中超硫黄分子が有意に減少することが示され、毛髪中超硫黄分子と毛髪強度の間に高い正の相関が確認された。以上のことから、毛髪は超硫黄分子を保有し、その超硫黄分子によって紫外線や熱、脱色剤などの様々な外的要因から毛髪を保護し、毛髪の形状や強度を保っていると考えられる。R-SSS-R'架橋構造は、R-SS-R'とは異なり、還元剤のみならず酸化剤によっても開裂することから、R-SSS-R'の安定化という新たな観点からの毛髪保護剤開発が望まれる。