主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【目的】ヒト血清アルブミン(HSA)は、血液中に最も豊富に存在するタンパク質であり、血漿膠質浸透圧の維持・調節や内因性・外因性リガンドの輸送担体としての機能を有する。これまでに我々は、HSA投与が致死性エンドトキシンショックモデルマウスの生存率を改善させることを見出してきた。さらに、HSAはチオール基やジスルフィド結合に硫黄原子が過剰に付加した超硫黄分子であることも明らかにしている。超硫黄分子は抗酸化作用などの有益な作用を持つことから、HSAによる生存率改善における超硫黄分子の影響を明らかにするべく、以下の検討を行った。
【方法】細胞実験系は、RAW 264.7細胞にリポ多糖(LPS)を添加し、その2時間後にHSAを添加し、Cystathionine β-synthase (CBS)誘導や細胞内超硫黄分子および活性酸素種 (ROS) 量の評価を行った。エンドトキシンショックモデルマウスは、10 mg/kgのLPS腹腔内投与により作成し、LPS投与2時間後にHSAを静脈内投与して生存率などの各種評価を行った。
【結果・考察】LPS により刺激したRAW264.7細胞にHSAを添加したところ、超硫黄分子の産生酵素の一つであるCBS発現が増加した。また、CBS発現に伴い、細胞内に超硫黄分子が蓄積し、細胞内ROS量を有意に抑制することが確認された。次いで、エンドトキシンショックモデルマウスを用い、CBS阻害剤の前投与が及ぼすHSA生存率改善効果への影響を検討したところ、HSAによる生存率の改善効果はほぼ完全に消失した。このことから、HSA投与は、CBS誘導を介して、細胞内超硫黄分子量を増加させ、この抗酸化作用によって生存率を改善させていることが示唆された。本研究結果は、サイトカインストームを引き起こす細菌やウイルス感染に対する新たな治療メカニズムを示すものと考えられる。