主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【緒言】抗体薬の開発においてはヒトでの免疫原性リスクを回避するため,キメラ抗体,ヒト化抗体そして完全ヒト抗体とヒト内在性タンパクへ近づける努力がなされてきた。しかしながら,完全ヒト抗体に至ってもAnti-drug antibody(ADA)が生じ,曝露低下,薬効減弱あるいは有害事象発現等の臨床的影響が認められる事例が引き続き報告されている。代表的な免疫原性リスクの非臨床評価系としてヒト末梢血単核球を用いたT cell assayが知られており,T cell assayの陽性率は,臨床でのADA発現率と相関があると考えられている。一方で,臨床でADAが発現した場合でも,必ずしも臨床的影響が認められる訳ではなく,臨床ADA発現率と臨床的影響の関係は明らかになっていない。そこで本検討では主に上市抗体を対象に臨床ADA発現率及び臨床的影響の関連性を調査・解析した。また,T cell assayの結果についても公知情報が得られた抗体について解析に加えた。
【方法】上市抗体(36抗体)に加え,臨床試験でのADA発現により開発中止になった抗体としてBococizumabを加えた計37抗体を調査対象とした。主に本邦初回承認時の審査報告書を調査し,ADAによる臨床的影響の有無をYes/Noに分類した。T cell assayの陽性率は公知の情報を参考にした。解析は主に臨床ADA発現率,抗体タイプ,臨床的影響の有無に着目し行った。
【結果】臨床ADA発現率及び臨床的影響の有無の間に関連は見出せなかったが,臨床ADA発現率とT cell assay陽性率の相関は非常に高かった。また,キメラ抗体,ヒト化抗体,完全ヒト抗体のADA発現率及び臨床的影響に明らかな差は認められなかった。臨床的影響の中では曝露低下が最も多く認められていた。
【結論】臨床ADA発現率から臨床的影響の有無を判断することは困難であった。今後は臨床ADA発現率のみならず,臨床的影響を予測できる非臨床評価系の開発が望まれる。