主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
化合物Xを用いたラット胚・胎児発生に関する予備的な試験(pEFD試験)において、有効量付近から胎児の指趾異常や生殖器周囲の尿道下裂など催奇形性が示唆される所見が高頻度で認められた。催奇形性の機序解明のため、始めに特徴的な変化であったこれらの表現型に注目した。既存のソニックヘッジホッグ(Shh)経路阻害剤やShhのKOマウスにおいて、化合物Xと類似した所見である指趾の欠損や外部生殖器の異常が胎児に認められていることから、化合物Xの催奇形性の機序としてShh経路に対する阻害作用が考えられた。
次に、催奇形性が発現する臨界期を同定するため、ラット胎児の器官形成期(妊娠6-17日)を2、3あるいは4分割した各期間に化合物Xを投与した際の胎児の外表所見を観察した。2分割投与時には臨界期を同定する情報は得られなかった。4分割投与時においては、妊娠9-11日及び12-14日投与時の胎児に欠指や尿道下裂が認められたものの、器官形成期の全期間投与時に比べ、それら所見の発現頻度は小さかった。一方、3分割投与時においては、妊娠10-13日投与時に尿道下裂や指趾の異常を有する胎児が最も高頻度に認められた。したがって、化合物Xに特徴的かつ高頻度で認められた尿道下裂や指趾の異常が誘発される臨界期は妊娠10-13日と考えられた。
最後に、催奇形性の毒性標的候補であるShh経路に対する阻害作用についてin vivoで検討した。同定した指趾の異常や尿道下裂が誘発される臨界期(妊娠10-13日)に妊娠ラットに化合物Xを投与し、摘出胎児を用いたRNA-seqにより遺伝子発現解析を実施したところ、Shh経路の関連遺伝子であるGil1やPtch1/2の抑制が認められた。さらに、レポータージーンアッセイにてin vitroでのShh経路の阻害活性を評価した結果、化合物Xは既存のShh阻害剤と同程度の抑制作用を示した。以上より、化合物Xの催奇形性の発現機序としてShh経路の抑制作用が考えられた。