主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【背景】注意欠陥/多動性障害(ADHD)は発達障害の一つであり、遺伝素因、神経伝達異常、環境要因等が複雑に関連して症状が現れる。また、成人のADHD有病率は約5%と推定され、患者への処方数は増加しているが、第一選択薬であるメチルフェニデート(MPH)が次世代に与える影響は明らかでない。我々はこれまでに、妊娠マウスへのMPH投与は仔にドパミン関連遺伝子発現を変化させ、ADHD様の行動変化を生じさせることを明らかにした。近年、喫煙等の環境因子がエピジェネティク変化を生じ、次世代の発達障害発症に影響を及ぼすと報告されている。そこで本研究では、雄へのMPH投与が次世代に与える影響を検討した。
【方法】6週齢のICR雄性マウス(F0)にMPH(15 mg/kg)または生食を21日間連続皮下投与し、薬物未処置の雌性マウスと交配させ、生まれた仔(F1)を4群(F1-A~D)に分けた。6週齢のF1-A, Bに高架式十字迷路試験(EPM)を実施した。翌日、F1-BにADHD治療薬アトモキセチン(ATX)を投与し、EPMを実施した。4日齢のF1-C、3週齢のF1-D、EPM後のF1-Aから脳を採取し、RT-PCR法によりADHD発症に関連する候補遺伝子の発現量を測定した。
【結果・考察】F0-MPH投与群のF1では、EPMにおいてオープンアーム(OA)の進入回数、滞在時間および移動距離が有意に増加し、ATX治療によりOA進入回数および移動距離が有意に減少した。また、F0-MPH投与群のF1脳では、複数のADHD候補遺伝子の発現が変化していた。以上より、MPHはF0の精子に影響を及ぼし、次世代の遺伝子発現に影響を与え、その結果、F1にADHD様の行動変化を生じさせる可能性が示唆された。