日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S10-2
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シンポジウム10
ラット気管内投与法によるナノマテリアルの発癌性の評価手法の発展と課題
*北條 幹
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抄録

 ナノマテリアルの慢性毒性・発癌性については近年、情報が集積しつつあるが、その中でも、アスベストに類似した特徴を持つカーボンナノチューブの呼吸器毒性が注目されてきた。多層カーボンナノチューブ(MWCNT)については、慢性炎症に伴う間質の線維化・肉芽腫形成および反応性の肺胞上皮過形成が指摘されているが、2年間の連続吸入曝露試験の報告は、MWNT-7のラット肺発癌性を示した笠井らの1報のみである(2016年)。一方、津田らは、2週間程度の短期間の反復気管内投与後に2年間観察するという手法により(TIPS法)、数種のMWCNTの発癌性評価を行ってきたが、MWNT-7に関しては、笠井らとは異なり、胸膜中皮腫のみ有意な発生率の増加を認めた(沼野ら2019年)。連続吸入曝露ではMWCNTの肺負荷量(残存量)が次第に増加するのに対し、TIPSでは投与期間終了時にピークとなるため、両実験は、肺負荷量の経時変化が大きく異なっており、それが結果の違いにつながった可能性がある。

 これを踏まえ、我々は、肺負荷量の経時変化が吸入曝露に類似した気管内投与のデータが必要であると考え、長期にわたる間欠曝露試験を実施した。F344ラットにMWNT-7を4週間に1度、2年間、気管内投与した実験では、肺腫瘍と胸膜中皮腫の両者の発生頻度が有意に増加した。また、前処理により繊維長を短くしたMWNT-7を4週間に1度、1年間投与後に1年間観察した実験では肺腫瘍は発生せず、胸膜中皮腫が孤発性に認められた。これらから、肺負荷量の経時変化の違いやMWCNTの形状の違いが肺腫瘍の誘発性に影響すること、また、気管内投与試験では吸入試験に比べ胸膜中皮腫が誘発されやすいことが示唆された。

 本発表では、肺負荷量やMWCNT繊維の胸腔移行に注目し、気管内投与法による発がん評価の利点や課題について論じたい。

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