主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
医薬品の非臨床分野では催奇形性物質の代表としてサリドマイド(THA)が挙げられる。しかし、催奇形性発現に感受性があるウサギにおいても全胎児に異常があるわけではなく、投与量および投与期間によって発現プロファイルは変わる。
我々は、THAを用いて医薬品服用時の男性避妊期間及びその必要性を設定するエビデンスに基づいた非臨床試験法の確立のために、ウサギ雄性生殖を介した雌性膣内経路による催奇形性発現の評価を試みている。
雄ウサギに催奇形性発現量である250、500 mg/kgのTHAを経口投与し、血中および精漿中のTHAおよび2種のヒト型(5-OH体)およびげっ歯類型(5'-OH体)代謝物の移行を液体クロマトグラフ-質量分析計により測定した結果、雄ウサギ血漿と精漿のTHA濃度比は0.5から1.1の範囲内で、精漿中と血漿中は同様の濃度推移を示すことが明らかになった。そこで、ヒト精液量、射精回数、女性平均体重から精液を通して女性が曝露されるTHA移行量(約3.2 µg/kg体重/day)をもとに、種差および個体差を加味し、交尾排卵後の雌ウサギ膣内に0.4、10 mg/kgのTHAを連続膣内投与した。膣内投与による胎児形態への影響、ウサギ母体血漿中、胎盤、卵黄嚢膜、胎児中のTHAおよび水酸化代謝物の薬物移行を調べ、妊娠ウサギへの経口投与による胚・胎児発生への影響と比較した。膣内投与後7時間まで実測母体血漿中薬物濃度推移は、生物学的薬物動態解析モデルを用いた仮想経口投与後の予測血中濃度推移とほぼ同様であった。また、膣内投与による胚・胎児への影響はなかった。
本シンポジウムでは、ウサギを用いて精漿を介したサリドマイドの催奇形性発現の可能性について報告するとともに、なぜ、全ての胎児に形態異常が発現しないのか、THAと2種代謝物の動態推移の結果から考えてみたい。